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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)3479号 判決 1997年1月29日

大阪市西区立売堀一丁目一一番八号

控訴人

日本空気力輸送装置株式会社

右代表者代表取締役

小泉恭男

右訴訟代理人弁護士

相馬達雄

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

松浦功

右指定代理人

谷岡賀美

鈴木衣代

加藤英二郎

桧原一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事案の概要及び争点

第一控訴の趣旨

一 原判決を取消す。

二 被控訴人は、控訴人に対し、四二二五万五四九七円、及びこれに対する昭和五三年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三 二項につき仮執行宣言

第二事案の概要等

事案の概要、争いのない事実及び争点についての当事者の主張は、左記のほか、原判決二枚目表二行目ないし同五枚目裏七行目記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

原判決二枚目裏三行目「売却した」を[供給する旨の契約をした」と改める。

(当審における控訴人の主張)

1 本件契約における控訴人の義務の主要部分は、プラントとしての本件装置を構成する各部品の指定倉庫への納入ではなく、装置の据付、試運転及び技術指導にあるのであり、控訴人は、法律上は、試運転が終了し、検収を終えるまで代金債権を行使することはできない。ただ、本件の場合、特殊事情から、検収終了前に控訴人に対する代金の支払がされたが、これは本来は仮払いであり、会計上は、控訴人側も仮受金として受入処理するのが正しく、検収が終了した昭和五三年五月決算期に収益として計上されるべきものである。

2 控訴人においては、遅くとも昭和四三年以降、一貫して、売上の計上について検収、引渡しを基準とする会計処理をしてきたものであり、この会計処理原則は所轄税務署からも承認されてきた。企業会計原則におけるいわゆる継続性の原則からしても、本件契約について右会計処理原則を適用し、検収終了時に売上計上するのが正当である。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから、棄却すべきものと判断する。その理由は、左記のほかは原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決六枚目表四行目冒頭から同七枚目裏七行目末尾までを次のとおり改める。

「(一) 三菱油化株式会社(以下[三菱油化」という。)、蝶理株式会社、西日本貿易株式会社及び株式会社日立製作所(以下[日立製作所」という。)は、昭和四八年七月二五日、中国技術進口総公司(以下[中国総公司」という。)との間で、次の事項を含むプラント輸出契約(以下[本件プラント契約」という。)を締結した(甲一六の12)。

(1)  三菱油化は、中国総公司に対し、エチレンを原料とし、空気を触媒とする低密度ポリエチレン樹脂を生産するプラント装置を供給する(一条)。

(2)  三菱油化は、中国総公司に対し、必要な生産設備、装置、材料、予備部品等(本件プラント契約上は「貨物」と略称される。)を供給し、かつ、技術資料(設計資料、ノウハウ・特許技術資料等)及びノウハウ技術、特許技術の使用権と技術サービスを提供する(二条)。

(3)  三菱油化が中国総公司に対して提供する技術サービスには、熟練技術者を派遣し、技術指導を行うことを含む。この技術者の職責及び中国総公司が負担すべき右技術者派遣費用等については、別途協議のうえ契約する(三条一項)。

(4)  中国総公司は、三菱油化に対し、前記二条の「貨物」及び技術資料の代価並びにノウハウ・特許技術資料使用料として、三八〇一万八〇〇〇元及び一八四万八七〇〇ドルを支払う(六条)。

(5)  据付、試運転及び仕込運転の作業は、中国総公司の統一指導のもとに行なう。具体的作業の組織、段取りは、三菱油化と中国総公司の代表が協議決定し、三菱油化の技術者は技術指導の責任を負う(五六条)。

中国総公司は、据付、試運転及び仕込み運転の要員を配備し、これに必要な物資を供給する(五八条)。

(6)  三菱油化は、本件のプラント装置がすべての確認保証指標を達成できることを保証する(六八条等)。

(7)  前記「貨物」の所有権及びこれについての危険負担は、船積時に三菱油化から中国総公司に移転する(七六条)

(8)  蝶理株式会社、西日本貿易株式会社及び日立製作所は、三菱油化の契約履行に協力する(契約書上は、日立製作所固有の債務の定めはない。)。

本件プラント契約上は、三菱油化が中国総公司に対して直接の債権、債務を負うこととされているが、実態は、三菱油化はコンサルタント、控訴人がエンジニアリングをそれぞれ担当し、蝶理株式会社と西日本貿易株式会社は商社として取引に介在した。

中国総公司と三菱油化は、本件プラント契約三条一項に基づき、協議した結果、昭和四九年四月一一日、三菱油化の派遣する技術者の具体的派遣計画のほか、中国総公司は、三菱油化に対して三菱油化の派遣する技術者の技術指導費を支払い、また、右技術者に対しては一人一日当たり十五元の中国滞在手当てを支払うほか、宿舎を無償で提供し、往復の旅費を負担すること等を内容とする「技術者の派遣に関する補充契約書」(甲一六の9)に調印した。

(二) 日立製作所は、本件プラント契約書によるプラント工事のうち、ポリエチレシペレットの仕上工程における生成物の混合及び空気力輸送設備部分に該当する本件装置を控訴人に発注するべく、本件プラント契約締結の前後ころから、商社である中央工機を通じて控訴人に対する折衝を開始した。

日立製作所は、早い時期から、本件プラント契約上三菱油化の債務となる本件装置に関する技術指導を控訴人が行なうことを要求し、控訴人もこれを了解していた。

しかし、控訴人が、本件プラント契約締結直後の昭和四八年八月六日付けで中央工機を通じて日立製作所に提出した仕様書(甲一六号証の8)には、控訴人のする施工工事範囲区分の欄に試運転調整が右施工工事範囲内であることを示す記号の記載がなく、かえって試運転調整は「別途」と記載されているほか、納期として「御下命後二一〇日間」と、納入場所として「横浜港指定倉庫」と記載され、その後に並記された「車上渡し」と「据付試運転渡し」の印刷文言のうち、後者が抹消され、前者が残されている(これに先立って日立製作所から控訴人に対してされた見積依頼においても輸出条件はFOB国内港とされていた。)。

中央工機が日立製作所に提出した昭和四九年一〇年一七日付けの見積書(甲一六号証の3ないし5)にも、技術指導の費用又は報酬についての明示の記載はない(「一般事項一式」の中に「一般管理費」の項目があるが、その金額は特定明記されていない。)。

日立製作所は、昭和四九年一二月一〇日ころ、中央工機に対して、右見積書記載の見積額と同額の代金二億六〇〇〇万円で本件装置の発注をし、中央工機は、右の日、控訴人に対し、本件装置を代金二億五四八〇万円で発注して本件契約がなされた。しかし、本件契約については、中央工機が控訴人宛てに作成交付した註文書(甲九号証の1)があるのみで、契約書は作成させていない。右註文書には、受渡場所「指定場所輸出梱包渡」、(代金)支払条件「打ち合わせによる」旨の記載がある。

右のころ、日立製作所が、中央工機を通じて控訴人に交付した技術者派遣に関する昭和四九年一一月二〇日付の書面(甲九号証の2)には、納入形態「FOB&据付、単体試運転指導」、派遣についての契約内容のうち、派遣費受領通貨として「(一日一人)一二〇元相当時価日本円、一五元現地(食費)」、往復旅費「実費支給」、宿舎「無償支給」との各記載がある(前記(1)のとおり、昭和四九年四月一一日に調印された「技術者の派遣に関する補充契約書」(甲一六の9)では、中国総公司が三菱油化に対して派遣される技術者の技術指導費を支払うことが約されたが、右調印後本件契約締結のでの間に、右両者の間で、右「技術指導費」の金額を一日一人当たり一二〇元とする合意が成立したと推認される。)。なお、派遣先となる上海では、一日七元程度で三食の食事をとることができた。」

2  同七枚目裏末行「原告」から同八枚目表三行目末尾までを「日立製作所は、中国総公司から本件装置の船積みのころには本件プラント契約の代金の一部が支払われたこともあり、本件装置の船積み後、諸手続に要した期間経過時までには、中央工機に対して本件装置の代金二億六〇〇〇万円全額の支払を終えた。控訴人は、中央工機に対して、昭和四九年一二月以降昭和五〇年五月までの間に、本件装置の代金二億五四八〇万円の支払を請求し、中央工機は、控訴人に対し、昭和五〇年七月二一日までの間に、数回に分けて右代金全額の支払いをした(ただし、その全部又は一部は手形での支払であるが、これらの手形すべて支払期日に決済された。)。」と改める。

3  同八枚目表六行目「原告」から一〇行目「を受けた。」までを「控訴人に関わりのない事情から右の技術者派遣が何度か中断したこともあるが、それ以外の期間においては、控訴人は、ほぼ継続して、一名、時には二名の技術者を派遣していた。控訴人と中央工機、日立製作所は、昭和五一年三月ころから、控訴人が昭和五〇年中に派遣した二名の技術者の派遣費について協議し、日立製作所と中央工機との間ではこれを三二〇万円とし、中央工機と控訴人との間ではこれを三一〇万円とすることでそれぞれ合意し、控訴人は、中央工機から昭和五一年七月ころ、右三一〇万円の支払を受けた。右の協議の対象となった技術者派遣費の内訳は、一人一日二万一〇〇〇円で計算した日当のほか、専ら航空運賃及び諸手続費用等の実費からなる。右の日当の額は日立製作所・中央工機間、中央工機・控訴人間で共通であり、元換算では約一二〇元に相当する(控訴人がその後に派遣した技術者の派遣費の支払の有無及びその金額、支払時期は不明である。)。」と改める。

4  同八枚目裏七行目「仮受金」を「前受金」と改め、九行目末尾の後に改行して次を加える。

「 控訴人においては、遅くとも昭和四三年以降、機械又は部品単体での販売は別として、国内取引かそれとも国外向けの輸出目的の取引か、あるいは代金の支払条件等の個別の契約内容を考慮することなく、売上の計上について検収、引渡しを基準とする会計処理をすることとし、所轄税務署に対しても右の会計処理原則を通告していた。しかし、実際の運用上は、いわゆる売上原価の付け替えなどの操作をして売上時期を遅らせる恣意的会計処理をすることがあった(本件契約についても売上原価の付け替えをした形跡がある。)。」

5  同九枚目表八行目「第七回目の調査では」を「第三回目の調査以降後記のとおり第一〇回目の調査で再度供述を変更するまでは」と改める。

6  同一〇枚目裏三行目「原告は、」の前に「控訴人は、昭和五三年七月五日、本件刑事事件の被疑者として検査官の取調べを受けたが、その際には、主に中央工機から受領した代金のうち九五八〇万円を簿外にした件について供述を求められ、売上計上時期については、独自の考えとしながら、これを試運転時であるとする旨供述した。その後、検察官に対し、控訴人の弁護士から本件契約の売上計上時期について本件訴訟における控訴人の主張とほぼ同旨の記載のある上申書が提出され、これを受けた同月一八日の検察官の取調べにおいて、控訴人は、検察官に対し、右上申書に副う供述をする一方、本件契約について、試運転完了が契約内容をなすのか否かはよく分からない、自分の言い分を踏まえて判断して欲しい等とも供述した。しかし、控訴人が検察官に対して、質問調査の過程において、国税局の調査官に脅迫又はそれに類するような言動があったとの供述をした形跡はない。」を加える。

7  同一〇枚目裏四行目「起訴され」の後に「(公訴事実は本件契約及びその他の取引についての売上除外及び売上繰延べによる法人税のほ脱)」を加える。

8  同一二枚目裏三行目「発注書」を「書面」と、六行目から七行目にかけて「認めるのが相当である」を「解することもできる」と、末行「別途協議すると」を「控訴人のする施工工事範囲内であることを示す記載がなく、かえって「別途」と」とそれぞれ改める。

9  同一三枚目裏二行目末尾の後に改行して次を加える。

「 以上によれば、本件契約に係る収益の帰属時期を控訴人主張のとおり昭和五三年五月期とすることが全く不合理とはいえないが、これを本件事業年度とすることにも充分な合理性があるというべきである。

控訴人が、従来から、運用実態はともかく検収、引渡時を売上計上基準とする建前をとってきたことも、右の判断を左右しない。個別の取引の契約内容、経済的実態を考慮することなく、一律に処理するのが相当ではないからである。

本件契約における控訴人の本体的義務について補足する。

前記認定事実によれば、本件契約は、本件プテント契約の一部下請契約的なものであり、かつ、本件契約の契約書は作成されていないことからすると、本件契約の解釈に際しては本件プラント契約の内容も参考とすべきである。本件プラント契約において、三菱油化は、生産設備等右契約でいう「貨物」の供給のほか、技術者を派遣してする技術指導等の[技術サービス」を提供する債務を負うが、中国総公司が支払うべき契約上の代金三八〇一万八〇〇〇元及び一八四万八七〇〇ドルは、「貨物」、技術資料及びノウハウ・特許技術資料使用の対価であり、「技術サービス」の対価部分はない。右「技術サービス」に関し、中国総公司が負担すべき右技術者派遣の費用等について後日別途成立した契約において、中国総公司は、派遣される技術者の宿者を無償で提供し、その交通費等の実費のほか、一人当たり一日、一二〇元の技術指導料及び一五元の滞在費(滞在費は技術者に直接支給)を負担することとされたが、派遣先一日三食を賄うには約七元で足りた。

右のとおり、本件プラント契約においては、技術指導は「サービス」とされ、その対価又は費用補償の具体的定めがなかった。後日、派遣技術者の宿舎を無償支給とするほか、中国総公司が、派遣技術者一人一日一五元の滞在費に加えて現地の物価水準からするとかなり高額の技術指導料を支払うことが約されたが、本件プラント契約上の代金総額と比較すると、純然たる費用補償に過ぎないとはいえないにしても、対価と目すべき部分はわずかであると解される。

日立製作所の中央工機に対する発注価額算定の基礎となったと推測される中央工機の前記見積書(甲一六号証の3ないし5)でも、技術指導の費用又は報酬についての明示の記載がなく、また、中央工機と訴訟人との間において、控訴人が派遣した技術者の派遣費について、交通費等の実費精算のほか、「日当」の名目で一人当たり一日約一二〇元、邦貨で一日二万一〇〇〇円を中央工機が支払う旨、中国総公司と三菱油化との間の技術指導料の約定と同一の合意されたことに照らすと、本件契約においても、右のような本件プラント契約における三菱油化のなすべき給付とその対価との関係が反映されていると推測することもあながち不合理ではない。そして、現に中央工機から控訴人に支払われたことが確認できる技術者派遣費用は、本件契約の代金額と比較すれば少額であり、前記認定以外に更に右派遣費用が支払われたとしても、派遣の人数及び期間からして、やはり代金額との比較では少額であると推測される。そうすると、本件契約に関する限り、控訴人のなすべき技術指導に対して支払われる対価又は費用補償は少額なものにとどまるから、この点からしても、本件契約における控訴人の本体的義務は本件装置の指定倉庫での引渡しにあるということができる。」

10  一四枚目裏一行目ないし同一五行目表三行目を次のとおり改め、同四行目「四」を「五」と改める。

「3 本件契約に係る収益の帰属時期については、控訴人主張のとおりこれを昭和五三年五月期と解することもできる。この見解を採ると、右収益の帰属時期を本件事業年度とした本件修正申告には、収益の帰属時期について誤りがあったことになる。しかし、本件修正申告の申告書(明細書を含む。甲二四号証)を精査しても、右の収益帰属時期の判断に関わる契約締結に至る事情、契約内容等が全く判明しないことはもとより、右の収益を本件事業年度に帰属するものとしたこと自体も判然としないから、その記載内容からは、右の誤りは明らかとならず、その形跡を窺うこともできない。

したがって、右の収益帰属時期についての控訴人の主張を容れたとしても、右のような意味において、本件修正申告における錯誤が客観的に明白であるとは到底いえない。

4 しかも、前記のとおり右の収益帰属時期については当然に一義的判断ができるものではないから、この点からしても、本件修正申告における錯誤が明白であるとはいえない。その理由は、原判決一四枚目裏三行目「右収益の」から末行末尾までと同一であるから、これをここに引用する。

5 したがって、いずれにしても、本件修正申告において、収益の帰属時期について客観的に明白な錯誤があったとはいえない。

四  控訴人は、査察官の脅迫的言辞を用いた違法な慫慂により本件修正申告を余儀なくされた旨主張し、甲一四号証及び控訴人代表者本人尋問の結果中にはこれに副う部分がある。

しかし、控訴人代表者の査察部の調査期間中、終始経理を担当していた総務部長や顧問税理士と相談しながら調査に臨んでいたこと、右代表者が修正申告を行うことを決意した日も、その日に右総務部長らにより修正申告書が作成されたが、提出は翌日であるから、再考の機会があったこと、右代表者は、検察官の取調の際は、それなりに自己の見解を述べているが、査察官から強迫を受けた等と供述した形跡がないこと、以上の諸点に照らすと、甲一四号証及び控訴人代表者本人尋問の結果中控訴人の右主張の副う部分は、これに反する乙一一号証と対比して、にわかに採用できない。

他に、控訴人の右主張を認めるべき証拠はない。」

二 よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 河田貢 裁判官 佐藤明)

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